CO2排出量算定・可視化
ゼロボード
CO2を見える化し、削減していくためのエコシステムをつくりたい
Business Person
株式会社ゼロボード ビジネス本部長
坂本 洋一
三菱UFJ銀行にて、金利・流動性リスク管理、市場系取引システムの統一プロジェクトなどに従事。ロンドン支店に4年間勤務後、ドローンベンチャーであるA.L.I. Technologiesに参画。エナジーソリューション部門にて事業開発を担当し、大手重電メーカーの電力関連新規事業のサポート、経産省マイクログリッド補助事業の組成をリード。ゼロボードでは企業とのアライアンス、営業、カスタマーサクセスを担当。大阪大学理学部数学科卒。
Contents
サプライチェーンをカバーするCO2排出量可視化サービス
――サービスが生まれた経緯や背景をお教えいただけますか?
前職は、ドローンやホバーバイクの開発を行うベンチャー企業、A.L.I. Technologiesのエナジーソリューション部門で、事業開発を担当していました。もともと、私や当社代表も含めた複数のゼロボードメンバーがA.L.I.に在籍していて、重電系メーカーに対する新規事業や環境系のコンサルティング、ソフトウェアの受託開発などの事業を行っていました。少しずつ電力や環境に関する知見を蓄積していく中で、自然と自社ソリューション開発の機運が高まり、それを実現するための会社としてゼロボードが設立されました。
当初は、排出権取引に関するサービスなどを打ち出そうとしていたのですが、さまざまなお客様と話す中で、実はCO2排出量の「把握」の段階に課題があることが見えてきました。そこから着想したのがCO2排出量を可視化するサービス「zeroboard」です。2021年の春に環境関連の展示会でコンセプトを発表したところ、想像以上の反響があり、本格的に事業化を決断しました。
――このサービスの特徴はどんなところにあるのでしょうか?
このサービスの最大の特徴は、スコープ3(下図参照)、つまりサプライチェーン上の排出量を見える化できることです。多くの企業がスコープ1と2の把握で止まっている現状を踏まえれば、ここが最も大きい特徴と言えると思います。
もう少し詳しくご説明します。CO2排出量に関して、今、企業が最も頭を悩ませているのがサプライチェーン上の排出量の把握・削減です。現在、多くの会社は環境省などのデータベースを活用してスコープ3の排出量を算定していることが多いです。それゆえ、例えば同じ工程を担うA社、B社、C社という3社のサプライヤーがいた場合、実際にはA社の排出量が少なかったとしてもデータベース上の標準値を一律に適用するため、全社同じ排出量と算定されてしまっている場合があるのです。
これでは努力して排出量を削減しているサプライヤーが報われません。排出削減に取り組むモチベーションも上がらないと思います。「zeroboard」を使用し、サプライヤーの実績値で排出量を算定するようにできれば、実際の排出量がより少ないサプライヤーが最適な取引先として選ばれるはずです。そうなることでサプライヤーにとってもCO2削減のメリットが明確になり、取り組もうという機運も高まるはずです。公的な標準値を用いてスコープ3を算定するサービスもある中で、当社としてはサプライチェーン上の各企業の排出量を算定することが本質だと考えています。それによって企業を動機づけ、排出量を実際に削減することが大事だからです。
また、算定データを、必要に応じて取引先や削減ソリューションの提供会社、金融機関、行政などとも共有できる機能を提供しています。「zeroboard」の本質的な価値は、社会全体でCO2を見える化し、削減するためのエコシステムをつくりあげていくことにあると考えています。
注1 上流工程のその他の排出源:資本財、スコープ1、2に含まれない燃料およびエネルギー関連活動、廃棄物、出張、リース資産
注2 下流工程のその他の排出源:輸送・配送、製品の加工、リース資産、フランチャイズ、投資
出典)環境省:「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」ウェブサイトより
面白そうなことを追求した先で「サステナビリティの本質」に出会った
――もともと環境問題に興味をお持ちだったのでしょうか?
いえ、全くそうではありませんでした。金融機関からA.L.I. Technologiesに転職したのは、純粋に「面白そう」というのが理由でした。金融機関での海外赴任の際に住んでいたロンドンで、流行していたブロックチェーンをはじめ、宇宙産業やアドテクノロジーなど、さまざまな新技術に興味を持ち勉強していました。とにかく面白そうと思えることを調べる中で、A.L.I. Technologiesが当時公開していた「空飛ぶバイク」の動画に惹かれて採用面接を受けました。その時に現在のゼロボード代表と出会い、転職を決意しました。その当時は環境問題への興味度は低かったと思います。ただ、なんとなくモヤモヤした想いは抱えていました。私に限らず、仕事に対して「これでいいのかな? 自分の仕事は世の中で役に立っているのかな?」という想いを抱えている人は多いと思います。だからこそ、「zeroboard」の普及を通じて、実際にCO2排出量削減に貢献できる、ひいては気候変動の緩和に寄与できるというのは、何かが心にスポッとハマったような、霧が晴れたような気分です。それは、社会に対して良いことをしているということと、会社の事業が伸びていくことの両方が実現できているからだと思うのです。
実はこれこそが、社会や企業に求められているサステナビリティの本質だと考えています。環境と経済、もしくは社会と経済を両立させることが重要であり、「環境に良いことをしているから会社が成長しない」という状態や「経済を成長させようとして環境や社会への悪影響を見過ごす」というような状態で気持ちよくいられる人は少ないと思います。昔の私のようにすっきりしない想いを抱えている人は多数いらっしゃるはずであり、それは私たちにとって大きなチャンスだと思っています。「環境配慮をきちんとやっていくと、実は企業としても成長する」という認識を広め、環境と経済を上手くつなげていくというのが、我々の使命だと考えています。
実は、お客さまと話すとき、サービスの説明よりも、今お話ししたような考え方をお伝えすることを大切にしています。そこを納得いただいたうえでご一緒させていただくことが大事だと思っています。
失敗から学んだチームの大切さ
――仕事をするうえでどんなことを大切にしていらっしゃいますか?
一番大切にしているのは、チームとして成長していける環境をつくることです。どれだけ頑張ったとしても1人でやれることは限られています。私も昔、あらゆることを自分ひとりでやろうとして大失敗したことがありました。結局、その失敗は周りの人たちが助けてくれてカバーできたのですがその時に「仕事は1人でするものではない」ということを痛感しました。
当たり前の話ですが、私ができることが「1」だとすると、どれだけ頑張ったところでその値は「1.5」か「2」程度にしかなりません。しかし、例えば10人のチーム全員が「1」から「1.1」まで成長すれば、それだけで1人分くらいのリソースが新たに生まれることになります。それがチームで働くことの意義なのだと思い至りました。その「1」が「1.5」になるのか、それとも「0.5」になってしまうのかというのは、チームの雰囲気に大きく左右されます。例えば、何でも指示してしまい自由度が失われると、その人は自分で考えることを止めるだけでなく、周りの目を恐れるようになってしまいます。そうすると楽しみもモチベーションも失われ、仕事にも影響が出ます。個人がモチベーションを高く維持し、自由に行動した結果としてチームの力が強まる、というのが理想だと考えており、そのような環境をつくることを意識しています。
企業だけでなく個人を参画させる仕組みも
――お仕事を通じて得た気づきがあれば教えてください。
気候変動で世界の気温が上昇した場合、1.5度でも異常気象の出現頻度が何倍にもなります。さまざまなシナリオの中でも、気温上昇が比較的控えめに設定された場合でさえ、それほど大きな影響が試算されているのです。この事業を通して、そのことをみんなに気付いてもらい、社会全体として動く気運を作りたいーー。あらためてそう感じています。
こういったサステナビリティの領域は、「なんとなく大企業がやっているもの」という世界観ではだめなんだということも最近強く思います。企業はもちろん、個人にとっても経済的なメリットや、「面白い」という情動面でモチベーションが持てるような仕組みが必要だと思っています。今後はぜひそのような仕組みづくりにも挑戦したいと考えています。企業も個人も含め、社会全体が動くような世界にならなければカーボンニュートラルは実現できないはずです。いかに多くの人が「自分ゴト化」できる社会にしていくのか考えていきたいと思います。
プライベートでは、昨年10月に結婚したことで、「次の世代に何を残せるのか」を考えるようになりました。少し大げさかもしれませんが、いつか子供が成長したときに「お父さんの仕事のおかげで未来に可能性が残された」と思ってくれたら嬉しいです。
株式会社ゼロボード
2021年創立。GHG(温室効果ガス)排出量算定・可視化クラウドサービス「zeroboard」を開発・提供するとともに、脱炭素に関するコンサルティング、ブランディング・キャンペーン支援なども手掛ける。「CO2が見えると、クリーンな未来が見えてくる。」をスローガンに、脱炭素化を目指す企業やサービスをテクノロジーで後押しするスタートアップ。CO2に代表されるGHG排出量の把握と削減支援を通じて、脱炭素経営ひいては脱炭素社会実現への貢献を目指している。