まちづくり
南海電鉄
地域との共創により、南海沿線で働き、暮らす魅力を高めたい
Business Person
南海電気鉄道株式会社 まちづくりグループ まち共創本部 共創事業部
豊田 真菜
2015年入社。人事部で採用や教育に携わった後、2019年8月、沿線価値創造部(現・共創事業部)に異動。「沿線に活気ある企業や魅力的な仕事を増やすこと」を目標に掲げ、「#BIZ TAG NANKAI」の担当として、オープンファクトリーへの協力などを行う。また、沿線自治体との連携窓口や、沿線農家と連携した取り組みに携わる。
南海電気鉄道株式会社 まちづくりグループ まち共創本部 共創事業部
鬼頭 麦
学生時代に「まちづくりに携わりたい」と就職活動を進める中で、南海電鉄の地域文化を尊重するまちづくりの姿勢に共感。2021年に入社後は、まちづくりへの想いが買われ、企画部(現・共創事業部)に配属。現在は「#BIZ TAG NANKAI」で協力しているオープンファクトリーに携わりながら、「家族にえがお+1」「リノベーションまちづくり」などのプロジェクトも担当。
Contents
南海沿線で働き、暮らす人を増やすために、まちづくりに取り組む
――なぜ、鉄道会社が沿線企業との共創に取り組むのでしょうか。
豊田:日本全体が人口減少する中、大阪から和歌山をつなぐ南海沿線においても人口減少が課題となっています。鉄道事業や不動産事業を基幹事業とする当社のような企業は、沿線の人口動態によって収益が左右されます。その中で持続的に成長していくためには、沿線の自治体や企業をはじめ地域のさまざまな方と一緒にまちづくりに取り組み、社会課題を解決しながら南海沿線を“選ばれる沿線”にしていく必要があるのではないか――。そうした考えから、当社では2019年に沿線価値創造部(現・共創事業部)を設置し、「沿線価値向上プロジェクト」をスタートしました。その中の一つの取り組みが、沿線で働く人を増やすことを目的とした「#BIZ TAG NANKAI」です。沿線には魅力的な産業・企業があることをアピールすることで、沿線で働く人を増やすことを目指しています。
鬼頭:「#BIZ TAG NANKAI」では、沿線企業の魅力を広く発信しています。2020年からは沿線で行われるオープンファクトリーへの協力も始めました。これは、企業が工場を一般公開することでその地域の産業や企業の魅力を発信する試みで、地域活性化の取り組みとして、地域の企業が一体となって開催するケースが増えています。
他にも「#BIZ TAG NANKAI」では、企業の魅力向上・発信のためのさまざまな施策を行っており、オープンファクトリーへの協力の他、沿線企業のイノベーション支援や人材育成・採用支援など、沿線で働く人を増やすための取り組みを行っています。
――お二人は、南海沿線のどのようなところに魅力を感じていますか。
鬼頭:私は就職活動の際、まちづくりに携わる仕事がしたいと考え、関連するさまざまな企業を見ていました。重視したのは、実際に働くうえでどのようなまちに、どのような関わり方をすることになるのか、という点です。南海沿線を改めて他のまちと比較した際、新しさと同時に古き良き伝統もしっかり残っていることに気づきました。私が南海電鉄を志望したのも、そのように地道に地域の文化や伝統を大切に残してきた姿勢に感銘を受けたからなんです。
豊田:南海沿線と一口で言ってもエリアは広く、地域によって特徴は異なり、特に産業においてはさまざまな特色があります。例えばオープンファクトリーを実施しているエリアから挙げると、長い歴史を持つ刃物作りや注染・和晒等の伝統技術が息づく産業から金属やプラスチックの加工まで多種多様な堺、タオルなどの地場産業が栄える泉州、ニットをはじめとする繊維製品や木工、漆芸などがある和歌山など、特色ある産業やものづくり企業がたくさんあります。
――地域と関わる中で見えてきた、沿線の企業が抱える課題について教えてください。
豊田:お会いする沿線企業からよくお聞きするのは、これは沿線企業に関わらず多い課題かとは思いますが、変化の激しい社会環境にどう対応していくか、また人材面での課題を抱えられている企業が多い印象です。
鬼頭:社会環境変化への対応として、これまで通りのビジネスモデルに加えて、新たな事業を模索するなど、イノベーション創出に取り組んでいる企業があります。例えば、これまでBtoBで事業展開してきたけれど、自社の強みを活かして新たにBtoCの事業を展開していこうとする企業もあります。また、人材面の課題としては、人材採用や人材育成が挙げられます。
オープンファクトリーは、このようなイノベーション創出や人材面の課題解決に繋がるものだと思っています。
地域をつなぐ橋渡し役として、オープンファクトリーを盛り上げる
――沿線のオープンファクトリーに興味を持たれた経緯を教えてください。
豊田:沿線の中小企業の若手後継者が新規事業を考えるワークショップ「南海沿線アトツギソン」を開催した後、「#BIZ TAG NANKAI」の次のステップとして、沿線企業の採用に効果がある取り組みができないかを模索していました。ちょうどそのタイミングで、沿線初となるオープンファクトリー「FactorISM(ファクトリズム)」が堺・八尾・門真などで開催されることが決まり、主催団体から協力してもらえないかとご相談をいただいたのです。そうして2020年以降、「FactorISM(ファクトリズム)」に続き「泉州オープンファクトリー」「和歌山モノづくり文化祭」「ワークワクワク河内長野」と4つのオープンファクトリーが開催されました。その中で当社は各オープンファクトリーへの告知協力、当社沿線施設「なんばCITY」でのイベント共催や、沿線で開催されているオープンファクトリー同士を繋げる交流会の開催など、各地域の状況に合わせて協力してきました。
各地でのオープンファクトリーの様子
豊田:オープンファクトリーの開催に向けて、各地域では主催者と参加企業が集まって定例ミーティングを行っています。そこではスケジュールの確認から、一般の方に工場を案内するコツまで、さまざまな情報を交換します。私たちもこの定例ミーティングに参加することで各地域の取り組みから学び、ほかの地域で参考になりそうな取り組みがあれば紹介するなど、地域の方との関係性を強化しながら、地域と地域をつなぐ橋渡し役となることを目指しています。
――沿線のオープンファクトリーへ協力するようになってから、参加企業にはどのような成果が出ていますか。
鬼頭:沿線に多いBtoBの製造業は、日頃お客様の生の声を聞く機会がほとんどありませんが、一般の方に製品やものづくりの現場を見ていただけることは、自分たちが気づかなかった製品の魅力や可能性を知る機会になります。例えば、部品の一つにすぎなかった製品が、見学に来た方から「デザイン性がある」と言ってもらえることで、新たな製品が生まれることもあります。オープンファクトリーがエンドユーザーと直接コミュニケーションをとる機会となり、従業員から「こういうものを作ってみたらどうか」「こんなことをしてみたい」といった提案があがるようになった企業もあります。
豊田:2020年に協力を始めてから、沿線のオープンファクトリーは1件から4件に増加しました。沿線に取り組みが着実に広がってきたのは沿線として誇れる成果だと思います。また、オープンファクトリーへの協力を通して出会った企業が、「#BIZ TAG NANKAI」で2021年から行っている合同企業説明会に参加してくれたことや、「FactorISM(ファクトリズム)」と当社が連携して大学生を相手にオープンファクトリーに関する授業を行うこともありました。これは沿線企業の採用活動にもつながってきており、沿線で働く人を増やすという目標に近づきつつあると実感しています。
――オープンファクトリーを通して感じる仕事のやりがいは?
豊田:オープンファクトリーは、地域の人が、地場の産業、企業を知る機会になっています。この取り組みを継続することで、沿線で働き、暮らす人を増やすことにつなげるという、南海沿線の価値を高めていく可能性を感じています。ですから、若い世代にとっても、沿線企業が就職の選択肢の一つとなるような将来を目指していきたいですね。
また、オープンファクトリーを通して、さまざまな方にお会いすることができるのも大きな魅力です。主催者や参加企業の方々は意欲があり人間的な魅力を持っている方が多く、一緒に取り組むことで大きな成長の機会となっていると思います。
鬼頭:これまでお話しした通り南海沿線は魅力的な地場産業が多いですが、その内側を見る機会はなかなかありません。オープンファクトリーの当日は子どもからお年寄りまで、地域の皆さんが「この会社ではこんな製品を作っていたんだ」と知って驚き、技術や職人の仕事ぶりに魅了され感動している姿を見ることができます。このときが、「この仕事をやって良かった」と思う瞬間の一つです。地域の人が、オープンファクトリーを通して地場産業や企業の魅力に触れ、地域を好きになって誇りを持ってもらえること、それ以上にうれしいことはありません。
地域との共創により、魅力的な南海沿線へ
――沿線のまちづくりに携わるようになって感じたことを教えてください。
豊田:地域の方とは、地域のことを理解したうえで話さなければ、信頼を得られません。人事部のときからわかっていたつもりでしたが、まちづくりに携わるようになって、直接人と話すことや自分の目で現場を確かめることがいかに重要かを再認識しました。このプロジェクトで関わる沿線のプレイヤーの皆さんは本当に魅力的な人ばかり。皆さんと一緒に何ができるか、ワクワクしながらこれからの構想を考えていきたいです。また、鉄道会社という特性から、地域の皆さんが当社に親しみを持ってくださっており、一緒に何かをしようとお声がけくださる機会もあります。そんなチャンスを活かして、もっともっといろいろな方々と地域の活性化に取り組んでいけたら良いなと思っています。
鬼頭:入社前はまちづくりを華やかなものだと考えていましたが、実際のまちづくりの仕事は絵に描いたきれいごととは異なり、地道な仕事を積み重ねていくことでした。まちづくりは沿線の自治体や企業などたくさんの人の努力があって成り立つものであり、だからこそ構想が実現した時にやりがいがあり、地域の人と一緒にまちづくりをしていく楽しさを感じています。
――最後に、今後の抱負について教えてください。
鬼頭:オープンファクトリーを通して沿線企業と地域の人々の魅力に触れ、改めて地域と共創しながら新たなまちづくりに取り組んでいきたいと強く思いました。沿線には企業だけでなく、農家やNPO法人、個人で活動されている方もたくさんおられますので、そんな沿線のプレイヤーの皆さんと連携し、これからも盛り上げていくという立ち位置で社会課題の解決やより良いまちづくりに貢献していきたいです。
豊田:今年2月に、沿線でオープンファクトリーを開催している4エリアの主催者と参加企業を招いた交流会を開催しました。地域間での交流を通してお互いに良いところや通ってきた課題とその解決策を共有していただくことができ、このつながりを活かしてゆくゆくは何らかのコラボレーションが生まれたらいいなと思っています。また、2025年には大阪・関西万博が開催され、世界中から多くの来場者が関西に訪れることが予想されます。万博会場で先進技術に触れた後、南海沿線の地場産業の現場を見て回って楽しんでいただけるのではないか。そんな夢を抱きながら、万博と同時期にオープンファクトリーができないか検討しています。沿線のオープンファクトリーはどれも魅力的なので、多くの方に知っていただくためにも、沿線の自治体や企業、農家、NPO法人など地域のプレイヤーと一緒に活動を盛り上げていきたいと思っています。
南海電気鉄道株式会社
1885年創業の現存する日本最古の民営鉄道。大阪・なんばと、関西国際空港や世界遺産の高野山、百舌鳥古墳群などの観光資源を結ぶ鉄道事業を展開。昨今の人口減少や少子高齢化などの課題解決に加え、コロナ禍を経ての構築と成長への基礎構築を行うために、2022~2024年度を対象とした中期経営計画「共創140計画」を策定。事業戦略の一つとして「選ばれる沿線づくりと不動産事業の深化・拡大」を掲げ、地域共創型のまちづくりに取り組んでいる。
https://www.nankai.co.jp/company.html
豊田さん、鬼頭さんの取り組みは、南海電鉄様コーポレートサイト「なんかいいACTION」でも、紹介されています。
ぜひ、合わせてご覧ください。
取材後記
オープンファクトリーへの協力を通じて出会った沿線の方々の魅力を熱く語る、お二人の語り口が、とても印象に残った取材でした。南海沿線で働き、暮らす人を増やすという遠大な目標と、オープンファクトリーという沿線の小さなイベントとがどう結びつくのか――取材前はぴんと来ないところもあったのですが、豊田さんと鬼頭さんのお話を聞くうちに、「沿線の人との小さなつながりを積み重ねていくことで、南海沿線を魅力的な地域にしていく」というビジョンが、しだいに腑に落ちてきました。
中小企業の採用難など、伺った話は、明るい話ばかりではありません。それでも、そうした地域の課題に耳を傾け、一緒に課題を解決する道のりを考えようとするお二人の前向きな姿勢に触れ、将来の南海沿線がどう変わっていくのか、楽しみになりました。
(株式会社ブレーンセンター YN)