エシカル商品の開発
セブン&アイ・ホールディングス
身近なお買物を通じて世界の子どもたちを支援する、サステナブルな社会づくりに参加するきっかけを広げたい
Business Person
株式会社セブン&アイ・ホールディングス
セブンプレミアム開発戦略部
藤本 直人
イトーヨーカ堂に入社し、寝具・タオルなどの住居関連の売り場を担当。その後、住居事業部で商品企画・開発に携わる。2016年1月よりセブン&アイ・ホールディングスに出向、イトーヨーカ堂で培ったマーチャンダイジングの経験を活かし、セブン&アイグループ共通のプライベートブランド商品「セブンプレミアム」における住居雑貨関連の商品開発に挑戦。現在は商品開発チームのマネジメントを担当している。
Contents
「商品に求められる価値」が変化するなかで
――もともとは店舗の売り場を担当されていたと聞きました。
はい。イトーヨーカ堂では店舗でずっと寝具やインテリア関連の商品を販売しており、お客様と直接お話をして、商品をご購入いただくということに一番喜びを感じていました。その後、当時の商品企画のトップの方がお店に来る機会があり、商品企画にチャレンジしてみないか?と声を掛けていただいたのがきっかけで本部に異動して、住居事業部のホームファニシング部門にマーチャンダイザーとして着任しました。
10数年以上も前ですから、当時は商品開発にあたって環境問題への配慮といった発想は正直、ありませんでした。お客様が求める品質と機能、値ごろ感のバランスをうまく取った“売れる”商品を開発するというのが最重要で、店舗時代の接客経験なども活かし、お客様の笑顔を思い浮かべながら奮闘していました。
――サステナビリティやエシカル消費を意識し始めたのは、いつ頃からでしょうか?
5年ほど前、ちょうど私がイトーヨーカ堂からセブン&アイ・ホールディングスに出向した頃になりますが、セブンプレミアムが10周年を迎えたタイミングで、ブランドステートメントが一新され、環境への配慮や健康志向、単身世帯の増加、女性の社会進出にともなう共働き世帯の増加、高齢化といったキーワードに沿った商品を提案するという方針がはっきりと示されました。私が担当する「セブンプレミアム ライフスタイル」のステートメントにも「便利で、使いやすく、環境にもやさしい。」という言葉が入りました。
――実際の商品開発にはどう反映されたのでしょうか?
一例ですが、使い捨てプラカップの原料をバイオマス原料に変えて、廃プラの量を減らす商品を開発しました。今ではバイオマスのプラカップはそう珍しくありませんが、当社が一番早かったと思います。
私たちのリーダーからは常日頃、「PBの頭文字は『プライベートブランド』だけど、その根底にある想いは『プライドブランド』だ」と言われていました。ですからイトーヨーカ堂時代から、品質・価格・機能にプライドをもって商品を開発してきましたが、今後はもっと社会的なニーズにも貢献できるような商品を、プライドを持って提供することが求められます。セブンプレミアムはグループの存在意義を象徴する商品ですから、さまざまな課題に常に先駆けて挑戦してきたいと思っています。
お客様も一緒に社会貢献できるエシカルな商品を
――子供地球基金との共同開発は社会課題解決につながる商品です。開発までの経緯を教えてください。
当社のサステナビリティ推進の部署から子供地球基金様の取り組みを紹介されたのがきっかけです。それまで私は子供地球基金様のことは存じ上げていなかったのですが、子どもたちが実際に描いた絵を見せていただき、独特な世界観や子どもならではの色の使い方、絵のかわいらしさなどにとても感銘を受けました。
また、代表の鳥居様に世界でさまざまな環境で生活をしている子どもたちの現実を直接聞いたことはとても印象的でした。紛争や貧困、衛生環境などの問題があり、学校教育も十分に行き届かない地域がたくさんあるということ、その中で絵画道具をもって行って子どもたちに絵を描いてもらう、それが子どもたちの笑顔につながる、そういう活動があると聞いて、何か我々にもできることはないのかなと思いました。
ちょうど開発チームの中でも、プラスチック削減やCO2排出量削減などの商品を開発していて、もう少しわかりやすく伝えられる――商品を買うことでお客様も一緒に社会貢献できる、参加型のエシカルな商品ができたらいいよね、という話をしていた所だったので、すごく素敵な取り組みをされているところがあるんだよ、とチームに紹介しました。
――その後、どのように開発を進められたのでしょうか?
開発の決定には色んなプロセスが必要なのですが、まず、事業会社の商品部の部長が集まる会議で、子供地球基金様の活動を紹介すると同時に、「子どもたちの絵をデザインに取り入れて売り上げの一部を寄付するという商品企画に挑戦しようと考えている」と伝えました。正直、こうした会議の場で新商品の提案をすると目先の売上やシェアの質問が来ることが多いため、その点はある程度目をつむって、とにかく取り組みの意義を根気強く訴えるつもりでいました。子供地球基金様の活動に協力するというのはまさに「プライドブランド」を体現できる大きな機会だと。
――反応はいかがでしたか?
ちょっと驚くくらいの好意的な反応でした。絵の素晴らしさや、考えの素晴らしさに共感を得て、事業会社の商品開発責任者からは「社会的意義のある取り組みなのであれば、各社でどんな商品ができるか検討してみよう!」という声が挙がりました。社内からも前向きな意見をもらったことで、環境やエシカルへの意識、サステナブルな企業経営という考えがグループ各社に深く浸透し始めていると実感できました。実際「今回をスタートとして第2弾、3弾と継続していくことが大事」、と言ってくれる方もいて、その後、各事業会社のマーチャンダイザーたちも目先の売上ではなく、長期の視点でみんなが利益を分かち合うというスタンスをもって安心してチャレンジすることができたと思います。
――開発がスタートしたのはいつ頃で、どのような取り組みから始めたのですか?
2019年の秋~冬ぐらいから始め、発売までは1年ちょっとかかりました。まずお子様自身や親御様をターゲットに、子どもに身近なモノからやってみたらどうだろう?という話をしました。それで学校で使うモノ、子どもたちが描いた絵と親和性が高い文房具や、毎日子どもが持っていくモノとしてポケットティッシュ、ということで開発をスタートしました。
また、お子様向けの商品なので代理購買者として20代後半から40代前半の保護者様を想定したのですが、ちょうどレジ袋有料化が話題になったタイミングだったので、その方々であれば環境問題の意識も比較的高い層ではないか?ということでエコバッグも一緒に開発していきました。
――開発にあたってどのような点が一番苦労されましたか?
ブランドとしての一貫性と、販売現場の皆さんに伝わるわかりやすさをどう出していくか、という所が一番心配していた点です。私たち開発側が、いくらこんな商品をつくりました!とか、いい活動なんです!と言っても、実際に販売するのは各事業会社の現場の従業員やセブン‐イレブンの1店舗1店舗のオーナー様なので、お店にどう伝えるか?という所に最も気を配りました。
そのためには、まずは商品1個1個に実力を持たせるということが前提となります。子供地球基金様の絵をパッケージに使うだけではなく、商品自体も、環境にも優しくて使いやすいというブランドステートメントに沿った付加価値を付けて、未来世代の子どもたちにしっかり残していけるものも考えなければいけないという思いで各チームが開発を進めました。
例えば鉛筆でいえば、一番多い「芯が折れる」という不満を解消するため、JIS規格の折れにくい芯を使う。原料そのものもFSC認証という森林認証の木材を使いました。ポケットティッシュもFSC認証の紙を使っていますし、エコバックも廃プラスチックやペットボトルから再生されたポリエステルを使った布地です。環境に優しい商品は新規の素材を使うことが多く、コスト高となる傾向がありますが、お取引先に趣旨を説明し、長期的に継続していく事業であることをアピールすることで、何とか「この品質なら」とお客様からお認めいただける価格設定となったと思います。
――商品の魅力を実際お店の方に伝えるためにどんな工夫をしましたか?
商品力と同時に重要なのが、販売現場の方々と今回のプロジェクトがもつストーリー…世界の子どもたちが描いた絵が、自分たちの未来に繋がっていくという“Kids Helping Kids”というストーリーをいかに伝えるかだと考えていました。
社内でも広報と、PR戦略部という新設の部署に協力を要請しました。するとメンバーも大いに共感してくれ、専用のホームページや動画をつくったり、いろいろな販売促進活動を提案してくれたりと一緒に盛り上げてくれました。店頭で使う販促物、ポスターや掲示物…プライスカード一つ取っても、子供地球基金様のロゴを入れるなど工夫してくれました。モノをつくるのは我々の方でやるのですが、PRの方法や店頭への繋げ方はすごくいろいろな部署に関わっていただき、グループ全体で進めることができたかなと思っています。
そのなかでも今回は、イトーヨーカ堂やヨークの全店舗の店長が集まる場や、セブン‐イレブンであればOFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー=店舗経営相談員)が集まる会議でも直接説明する場を設けてくれたというのがポイントだったと思います。加盟店の皆様に一番早く伝わる方法なので、そのような場ができたというのは大きかったと思います。また、このような会議で話をするのは初めてで、そこまで力を入れてくれたことにも感動しました。
ただそれでも、販売当日まで、お店の方たちにこの商品のことが本当に伝わっているだろうか?お客様にご理解いただけるだろうか?というふわふわした気持ちはありました。
――発売後、社内外の反響はいかがでしたか?
文房具の販売が予想より好調だったことはもちろん嬉しかったのですが、何よりも各店舗が商品をプレゼンテーションするためにレベルの高い売り場をつくってくれたことに感動しました。店舗によっては入り口のお客様が多く通る通路に、文房具、ポケットティッシュ、エコバックを全部まとめて大きく展開してくれたり、百貨店のそごう・西武でも大きく売り場を展開してくれたりと、各事業会社で本当に盛り上がってやっていただきました。
セブン‐イレブンも、小さな売り場ですが、エコバックとポケットティッシュは多くのオーナー様に導入いただき、私たちチームの思いがお店にまでしっかり伝わったのだなという実感がありました。
――お客様からの声は?
2021年 3月にそごう横浜店で子供地球基金様と共同開催した絵画展で商品を販売したのですが、会場で「これを私が買っていくことで子どもたちが喜んでくれるのね!」と買っていかれた方が本当にたくさんいらっしゃって、売っている人間としてもすごく誇りに思えたという社内の声も聞きました。
また、お客様からの嬉しいお言葉をいただいた例として、「自分の子どもが昔描いた絵がエコバックになってセブン‐イレブンに売っていた。あまりにも嬉しくなってたくさん買いました!」というお声が寄せられました。子供地球基金様は世界中の子どもたちの絵画を取り扱っていますが、その中の絵画の一つがたまたま日本の子どもが描いた絵で、そのお母さんがそのエコバックを見つけて買ったという話です。繋がりって本当にあるんだな!と驚きました。そしてまた、その収益の一部が子供地球基金様に還元されていくので、そういう循環が今後も生まれると良いなと感じました。
加えて、さきほど第2弾という話がありましたが、実は今年の春から子供地球基金様の絵をパッケージに使った牛乳、ヨーグルトも発売しています。住居雑貨の開発チームの取り組みを横で見ていた食品関連のチームが「一緒にやりたい!」と言ってくれ、すごく良い流れができつつあると思っています。
――子供地球基金側の反響はいかがでしたか?
こちらが恐縮するくらいお礼を言ってくださいます。そういうありがたいお言葉を頂きながら単発で終わらせたくないという気持ちを強くしています。一つひとつの粒は小さいかもしれませんが、長く続けていくことが大事だとチーム全体としても思っていますし、子供地球基金様ともその約束をしっかり果たしながら、これからも商品ラインナップを拡充していく計画です。
ビジネス世代こそもっと身近にサステナビリティを
――継続に向けて、今後の展開を教えてください。
子供地球基金様との取り組みでは、年内中に新たな文房具を発売する予定です。今回は一緒のタイミングでお菓子も発売します。住居雑貨だけでは届く範囲も限られるので、さらに幅広い方が買われる食品にも子供地球基金様の絵画をパッケージに使い、メッセージを届けよう!と企画していて、仲間がどんどん増えています。
――今回の取り組みで一番得られたものは、社内の皆さんの取り組んでいこうという意識や想いでしょうか?
そうですね。社内でPRをしてくれるチームや、子供地球基金様との窓口となってくれたサステナビリティ推進のメンバーもそうですし、グループ内のさまざまなノウハウや思いが連携できたというのは、私自身の大きな成果物だったと思いますし、共感してくれる仲間が一緒に動いてくれたことは一番嬉しかったことです。また、このPBを通じて、グループ一体となったサステナビリティへの活動をさらに一歩進めることができたと思います。
――今こうしてサステナビリティ商品の開発をされていて、ご自身の意識の変化は?
私には中学生の娘と小学校6年生の息子がいるのですが、今の子どもたちはサステナビリティやSDGsについて学校で習っている「SDGsネイティブ」ですので、こうした商品ができることはごく当たり前のことなんです。先日もジェンダーについて発表すると言って、プレゼンテーション資料を作っていました。このように学校の教育が変わってきているなかで、我々ビジネス世代の人間ももっと環境配慮やサステナビリティについて学ばなければいけないし、それらを身近に捉えた商品開発を進めなければと感じています。
セブンプレミアムには衣・食・住すべての商品があり、そしてコンビニエンスストアから百貨店まで、多くの業態で取り扱っているという大きな強みがあります。今後も持続可能な原材料や加工技術などについてしっかり学びながら商品開発を進め、身近なところからサステナブルな社会づくりに参加するきっかけをつくっていきたいと思っています。
株式会社セブン&アイ・ホールディングス
コンビニエンスストア、スーパーストア、百貨店、各種専門店など傘下にもち、国内約22,600店舗(2021年2月末時点)を展開する日本有数の小売グループ。2021年に発表した「中期経営計画2021-2025」では、すべての取り組みの根幹にサステナブルな社会の実現に貢献する視点を据え、社会価値と経済価値の両立を目指している。
子供地球基金✕セブン&アイ・ホールディングス
https://www.7andi.com/sustainability/g_challenge/special/kidsearthfund/
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